先日、元職場の人達と会いました。上司だったH部長(現在は某有名企業の取締役です。汗)、同僚数名と通称“地獄谷”(JR京浜東北線 大森駅脇の飲み屋街)で再会、昔話に花が咲きました。
【20数年前、台風一過の8月某日、某職場。】
齋藤 :「H部長、会社を辞めさせてください」。辞表提出、ドンッ。
H部長:「齋藤、ちょっと待て。何か理由があるのか?」
齋藤:「理由? 今日、空がとても青くて気持ちいいので会社を辞めて、外の世界に出ようと思います」
H部長:「……」
(晴天の昼休み、本社隣のSEIYUで便箋セット購入。全くのノープラン、辞表を書いて午後一番に提出。実話です)。
H元部長:「覚えているよ。お前が辞表提出した時のこと。本当に呆れたよ、本当にバカなのかと思ったよ。あの時本当に大変だったんだぞ。ようやく育ってきて、これからって時に辞めて。お前が抜けた穴を俺と課長達がカバーしたんだからな。恩返ししろよ」。「でも今はちゃんと会社の社長なんかをやっているから万事良しだ。会社経営って、預かった物を、社会に恩返しすることなんだよね。――――(省略)」。「利益は、世の中から預かっているだけ。自分が稼いだから自分の物だなんて思っちゃダメよ。それを社会の役に立つことにお返ししていくのが経営だよ――――――(長いので省略)」延々と説教、もといいいお話を聞かせていただきました。
長い長い話しに、少し意識が遠くなりかけた時。
……ちょっと待てよ、なんだかデジャブ感半端ないな。最近なんか似たようなことあったよな。そうだ、試用期間中のAさんが辞めるって言ってきたんだった。本当に嫌だな。と思い出したのです。
【数日前のある日、当事務所にて】
Aさん:「子どもが小さくて、仕事を休みがちなので、試用期間満了でやめさせていただきます」
齋藤 :「おい、おい、おい、ちょっと待ってくれー!(心の叫び)」。採用面接時に、「私は長く勤められます。子どもが小さいけれど、具合の悪い時は、同居両親の協力があるので大丈夫です」と言いましたよね。(゚Д゚)ゴルァ!!
Aさん:「ひと月前に言えばOKって就業規則に書いてありました。やめるのは権利ですよね」
齋藤 :「権利? あなたは、義務を果たした? 職場の同僚は、お互い様の精神であなたの仕事までしてくれたんだよ。会社だって、できる限り協力したよ」
日本の会社における新入社員は、職務能力、スキルを持っていません。入社から数年は利益をだす仕事はできません。歴史的に日本の会社は、職業能力を持たない若者を、会社内で育てあげる職業訓練機能をまかない日本経済を支えてきたのです。会社は先行投資の期間と割り切って雇用し、コストを投入します。教育し、お金まで支払う“フリーランチ(ただ飯)期間”を設定しています。会社はこの期間で辞められてしまうと投資回収ができずに赤字に苦しむことになります。ざっくり計算して、社員が半年の試用期間で退職すると採用経費、給与、OJT、OFF-JT費用、法定福利費、厚生費諸々約130万円を捨てることになるのです。
「チクショー、130万円を稼ぐには、約500万円売上が必要なんだぞ。バカヤロー、130万円あれば社員の賞与に払ってあげたかったよ」。マイナスの妄想がループし続けます。「でも待てよ、俺もアホな辞め方したよな。みんなに迷惑かけてわかった……そう言うことか! 時は経ってしまったけど、お互い様で頂いたご恩と、社会から預けて頂いた利益を、会社経営を通じて、お返ししているのではないだろうか。きっとそうに違いない。130万円はドブに捨てたんじゃなくて、社会に対する恩返しなんだ。今回も学ぶことはあったし、辞める彼女も、時を経て“お互い様の恩返し”をする事になるだろう」。
商売をし、世間様から利益を預けていただき、納税し、雇用を生み出すことで社会に貢献、恩返しが出来ることは本当に素晴らしいことじゃないでしょうか。腑に落ちました。元上司H部長の、意識を朦朧とさせる話が、私を救ってくれたのです、本当に感謝。今度は私が、全部おごりますよ、H部長。若い時フリーランチたらふく食べさせてもらいましたから。