朝礼でのお話。
職員が朝のTV番組を見ていたところ、現在支給されている老齢年金は世帯あたり月額約21万円。
30年後の試算では世帯月額12万円まで下がると、とても不安を感じたという話を聞かせてくれました。
私たちは、「なぜ起こってもいない未来に不安を感じるのか」がふと気になりました。
2019年に社会問題化した、老後に関する「年金2000万円不足問題」。
金融庁のWGが単なる試算結果を元にした数字を公表し、長寿命化するなかで自らの老後生活を考えるというものでした。
それに対して行政や政府に誹謗中傷が集中。中には、年金制度が悪い、高齢者に死ねというのかなど的外れな意見が情報番組で取り上げ炎上状態となりました。
なぜそれほどまでに人々は不安を感じたのでしょうか。
(株)セコムは10年間にわたって「日本人の不安に関する意識調査」を行っています。(https://www.secom.co.jp/corporate/release/2021/pdf_DL/nr_20211202.pdf)
大まかには、10年間一貫して約7割の人が不安を感じている。
そしてそのTOP3は
1.老後や将来への不安、2.健康に関する不安、3.災害、犯罪への不安 となっています。
この10年間変わらぬ不安対象の共通項は、変わりませんでした。
一万年ほど前から、人類は私たちホモサピエンスのみとなりました。
人類とはホモ属を指しています。
ホモ属には私たちホモ・サピエンスやヨーロッパのネアンデルタール人、アフリカ・アジアに居住していたホモ・ローデシエンス、西シベリア・モンゴル地域のデニソワ人、東アジアのホモ・エレクトスなど複数の種族が重なった時期に存在していました。
7万年前までは、ホモサピエンスが他の人類(ホモ属)に勝る点はありませんでした。
10万年以上前では、ホモサピエンスが、ネアンデルタール人との争いで負け続けていた証拠がいくつも確認されています。
つまりホモサピエンスは、人類の中で弱小で、ぱっとしない取るに足りないグループであったのです。
しかし、「サピエンス全史」の中で、ユヴァル・ハラリ氏はこう言っています。
私たちの祖先(ホモサピエンス)は、7万年前に「認知革命」を起こした。それは「虚構を作り出し信じる事が出来る能力」であった。
250万年の人類史の中で、わずか10万年前に生まれた最弱グループのホモサピエンスが、わずか5万年の間に他の人類(ネアンデルタール人、ホモエレクトス、ホモローデシエンシス)をすべて絶滅させてしまった。
それは、「虚構、噂話、想像」などありもしないことを、まるで「現実にあるかの様に考え」、「まるで現実におこるかの様にとらえる」能力が生み出した力であった。
「部族のリーダーはライオンの化身。だから必ず勝つことができる」
「部族の長は神の子孫である。だから負けることはない」
人類学者のロビン・ダンパー博士、は霊長類の脳の大きさから、関係性を維持できるのは150人が限界であるとしています。
しかし私たちが手にした「認知革命」虚構の力は、他の霊長類の能力を凌駕しました。
150人どころか何千万人という単位の人類を連携させ、協働することを可能にしたのです。
小さな集団を、大集団で協働したホモサピエンスが襲撃、抹殺していった歴史は善悪ではなく歴史としてとらえるしかありません。
そしてその能力が現在の私たちに「不安」として現れることも受け止めなければならないのです。
貨幣、経済、宗教、政治など現代社会を支えるインフラはすべて虚構から成り立っています。
つまりみんなが想像し、信じるから存在し、稼働しているのです。(詳しくは、サピエンス全史(上)1部)
将来の年金問題は、現実に起こっていません。
また30年後の社会を予測するファクターは数百、数千を超える複雑な要因が絡みっています。
現在の経済成長率、実質賃金の傾向、人口減などという単純かつ僅かな要因だけでは決めることができません。
つまり、金融庁の報告書などは単なる一考察にしかすぎないのです。
目の前の事象、事柄をうのみにするのではなく、目線を変えて俯瞰してみる。
このような俯瞰思考、メタ思考で考えれば、ほとんどの不安など取るに足らない。
また根本原因や不安の原因も自分なりに理解することで、もっと人生を豊かに過ごせるはずです。
政府や他人への不満や批判など意味はありません。
批評家、批判家ならずに、自身のできること、より良い行動にフォーカスすることで自信をもって生きていけるのではないでしょうか。
心配などする前に、まずは感謝と行動をしていれば、心配ごとなどいつの間にか忘れてしまいます。