NHKで放送中の『どうする家康』。
天下人となった家康が、家臣と一緒に、悩み苦しむ姿を、人間臭い視点で描きだしているドラマです。
家康が寺院への徴税権を強要したことで起こった「一向一揆」は、困窮した民衆、信徒などが蜂起し、家康の家臣までが一揆側に付くなど三河国は大混乱となりました。
この時、家臣たちは「家康への忠義」と、「自身の信じる思想(民衆や信仰)」との間で揺れ動きました。
その結果、渡辺守綱、蜂屋貞次、本多正信・正重、夏目広次などの複数の家臣が家康の元を離れ、一向宗(浄土宗)側に移ったのです。
「自身の思想、信条」が「家康の家臣でいることのメリット」を超えたための決断行動とも言えます。
現代風に言えば「転職した」ともいえるかもしれません。
顧問先企業で、ベテラン社員さん(20年〜30年くらいの勤務)が転職(退職)される事案が数件ありました。
細かな事情は異なりますが、いずれも「社長のやることが、自分の考え方、やり方と違う」「社長が自分を評価していない、もっと評価されるべきだ」といった不満が転職理由でした。
先日、当社で採用面接をした際の応募者Aさんとの会話です。
齋藤 :「Aさん、なぜ在職中なのに、当社求人に応募されたのですか」
Aさん:「会社の同僚に、病気の方がいて……薬を飲んでいるので多分メンタル系の病気だと思うんですよ。
その方が、挨拶が無かったり、あんまり意思疎通ができないんですよね。少し怖いので上司に、“精神病
だから、他部署に行ってもらうように”とお願いしたんです。でも上司は何もしてくれないんですよ。上司が
責任放棄している職場なんですよ」
齋藤 :「そうですか。それでは、その前の転職の理由は何ですか」
Aさん:「社長が2代目の息子さんに変わられたんですよ。そしたら突然若社長が来て、私たちの了解も無しに
改革だなんだ言ってるんですよ。何がしたいのか知らないけれど、“職務内容、取引先のこと”なんかを
聞きに来るんですよ。そんなこと社長なら聞かなくてもわかっていなければいけないことですよね。本当に
経営者がまるでわかってないんですよ」
齋藤 :「その会社の若社長さんは、Aさんを雇い、給料を払うことに満足されていたのですかね?」
Aさん:「……」
齋藤 :「Aさん、あなたは社長以上に優秀なようですから、どこの会社に転職されても不満ばかりかと思います
が。ご自身の思想、信条に合わないのであればご自身で理想の会社を創業されるのが一番良いと
思います。特に当社では、社長の私が一番のポンコツなので。すみません」
最近、「会社」と「従業員」は、法律的に対等な世の中になったと感じます。
「雇用」が過剰に守られすぎることによって、低いモチベーション、低生産性などの弊害が生じる問題もあります。
それでも日本社会は、戦後80余年でGDP第三位の「安全で、国に守られ、何でも買える、相対的貧困国」となることができました。
会社と従業員は、どちらが「偉い、偉くない」という「主従関係」があるから成り立っているわけではありません。
ましてや「社長の人間力、人望」が求心であるわけでもありません。
両者は、互いにメリットがあるからこの雇用関係を続けているということが前提です。
つまり、従業員さんから見れば、会社に所属することで得られる「有益な“何か”」があるからこそ、その会社で働き続けるわけです。
会社から見れば、会社にとってその「従業員さんを雇用するメリット」があるからこそ雇用し続けるわけです。
そのメリットが無くなれば、従業員さんが辞めていくことは仕方がありません。
しかしそろそろ、「自身のメリット」を考えると同時に「会社のメリット」もあることを考える、バランス感覚を理解する時期になったのではないでしょうか。
離転職を繰り返す方々の中には、このバランス感覚が欠如しているために、結果としてどの職場に転職してもまた転職してしまう様子がうかがえます。
この10年くらいで法整備が進み、権利意識が強くなってきたのはいいのですが、求人面接のAさんのような人がこれ以上増えないことを願います。
職業生活は現代社会において非常に大切な基盤です。
せめて、家康の家臣ように、「自身の思想、信条」を軸に据えた転職をして欲しいものです。