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【社長向け】1分コラム
【社長向け】1分コラム
作成日:2025/06/01
合成の誤謬──価格転嫁しない「美学」は社会にとっての「害悪」である





 私(齋藤):「2024年度の賃上げ率は4.5%。昨年に比べ減速傾向です。どうお考えですか?」

 

職員:「日用品や光熱費が高騰していて、賃上げされても実感は薄いです」


私(齋藤):「1万円の昇給でも、サラリーマンの実効税率を踏まえると、手取りは5,000円に満たないですよね」


職員:「顧問先で賃上げができているのはごく一部で、金額も1人あたり1,000円〜5,000円ほど。

上場企業と

比べると見劣りします。

A社の社長は『売上は厳しい。でも値上げできない。利益を削って賃上げした』と言っていました」


私(齋藤):「中小企業が適正に賃上げできるには、どんな施策が必要でしょうか?」


職員:「やはり生産性の向上でしょうか」


私(齋藤):「たとえば?」


職員:「今までの、2倍速で働く……ですかね?」



 

──そんな話の後、偶然見たテレビ番組『オモウマい店』。

紹介されていたのは、我が家のご近所の某焼き鳥店。

80代の女性店長と70代の社長、数名のパートで切り盛りする超人気店だ。

30年以上値上げなし、一串100円。今時、新橋のガード下でも一串180円以上だ。



「うちは30年、値上なしで頑張っています」

「儲けることなんか全然考えてないこて。とにかくお客さまの喜ぶ顔が見てっけ続けているんさ」



 信じられない安さと労働時間に、
MCのヒロミさんや小峠さんは大絶賛。

30年間値上げせずに、一日15時間も働いてるなんて感心するね。おばあちゃんの美学なんだね!


 

……「なんだと、こんニャロメ!」って怒りがわいてきた。



番組MCヒロミさんや小峠さん、世間のみなさんが言わないので、不肖 齋藤がはっきり言わせていただく。


 「日本を壊す犯人は、値上げをしない、利益度外視の商売人だ!」 


こういった適正価格を無視、利益も無視。

自分が働きたいだけ働き、自分の正義、美学だけで商売をする人間が、景気を悪くし日本社会を停滞させる犯人なのだ。

周辺の真面目に経営している、焼き鳥屋さんを困窮させ、倒産させているはずだ。



経済学には「合成の誤謬」という概念がある。

個々の合理的行動が、社会全体では非合理な結果をもたらすというものだ。

インフレにより家計が引き締まり、支出を減らし貯蓄することは家庭単位では正しい。

 しかし、それが社会全体に及べば、

消費の縮小→需要減少→供給減少→デフレという悪循環に陥り、結果として経済活動が停滞・衰退する。

どれだけ貯蓄があっても、社会全体が衰退すればサービスも商品も手に入らなくなる。

供給側である企業が存続できなくなるからだ。

 


こうした状況を受け、政府は202112月に「価格転嫁の円滑化パッケージ」を公表。

中小企業が発注元企業に対して人件費・原材料費等の上昇分を適正に価格転嫁できるよう制度設計を進めている。

価格転嫁に応じない行為は「買いたたき」と認定される。

いま中小企業経営者が本当にすべきことは、社員を倍速で働かせることではない。

「適正価格を主張し、価格交渉を行うこと」こそが、経済の健全性を保ち、従業員の生活を守る道なのだ。

利益を削ることは経営努力ではない、それは会社の未来を破壊し、

大切な社員の生活を危険にさらすことであるとを心に刻む必要がある。

大切なのでもう一度、「価格転嫁は責任ある経営努力」である。

過度な自助努力や利益の切り崩しは、美学ではなく、未来の破壊行為だ。



なお、私は今後ご近所の某焼き鳥店には一切行かない。

もし小針十字路付近で焼き鳥を食べたくなった方がいれば、すぐに私に連絡ください。

「炭火焼 ブチ」で食べ放題、払い放題で責任をもって接待させていただきます。