先日、ANAクラウンプラザホテルで、
外資系保険会社が新発売する「米国外貨建てがん保険」の説明会&パーティーに招待いただいた。
プレゼンターはTEDさながらにヘッドセットを付け、
「この商品は、@経営者の健康リスク(がん)と、Aインフレ・円安リスクに同時に備えられる」
と自信満々に説明していた。
某保険メーカー社員:「本日は、経営者が抱える @インフレリスク、Aがんのリスクに対応できる、
経営者向け 「外貨建てがん保険」をご説明いたします。
「日本人男性の6割、女性の5割ががんになります。
そしてがんが日本人の死亡原因 第一位(24.3%)なのです。
経営者ががんで死亡してしまうと、中小企業は倒産の危機となります」
齋藤 心の声:(まあ、嘘は言ってないよね、でもそれは正しい説明じゃないよね)
某保険メーカー社員:「このグラフを見ていただけますと、
インフレ上昇と円安の線グラフは同じ動きで相関関係があることがわかります。
円が弱くなるとインフレとなるのです。
つまり、ドル建て保険にすることで円安によるインフレのを回避ができる保険商品なのです。
齋藤 心の声:(本当にアホだなTED君。よくこんなでたらめな資料を会社がOKしたな)
某保険メーカー社員:「このデータから経営者が抱える、@がんリスク、A円安によるインフレリスクという
2つのリスク対応ができるのです」
保険会社や専門家(社労士、税理士、FP等)誰も言わないので、不肖 齋藤が言わせていただく!
がん保険やドル建て保険などは、絶対に買ってはいけない。
確かに、日本人の死因第1位は「がん」で、
2023年のがん死亡者数は382,580人(全体の24.3%)に達している。
だが年齢階層別に見ると、がんで死亡する人の81%が70歳以上である(厚労省「人口動態統計」)。
一方で、中小企業経営者の平均年齢は59歳、退任平均年齢は67歳(中小企業白書、2021年)。
つまり「経営者が任期中にがんで亡くなる可能性」は極めて低い。
50代のがん死亡率は4.9%、60代でも11.9%に過ぎない。
「現役時代にがんで死ぬ人はほとんどいない」のだ。
「経営継続のためにがん保険が必要」と煽るのは、合理性を欠いたセールストークに他ならない。
さらに問題なのが、「外貨建て保険はインフレ対策になる」という主張だ。
前出のTED君は、インフレ率と円安の相関をグラフで示し、
「ドル建て保険で二重のリスクを回避できる」と説いたが、これは誤解を生む論理展開である。
まず、為替レート(円安)は通貨供給量や金利差など国家間の貨幣政策の違いで決まり、
インフレ(物価上昇)は国内の需要と供給で決まる。両者は構造的に異なる現象だ。
ある時期に円安とインフレが同時発生していても、
それは一時的な現象であり、恒常的な因果関係があるわけではない。
たとえば、2022年の急激な円安局面では、
多くの輸出企業(上場企業の3割以上)が過去最高益を計上した(東京商工リサーチ調査)。
円安は「国力低下」ではなく、むしろ輸出促進・海外利益増加という側面も持ち得る。
経済学的には「自国通貨安=近隣窮乏化政策」とされ、自国にとってプラスに働くことが多いのだ。
このように、「円安=リスク」「外貨建て保険でインフレを防げる」などの説明は
極めて表層的であり、経済学的根拠もなく、間違っている。
ましてや保険という金融商品は、保険数理に基づいてリスクを平準化しつつ、
販売手数料・管理コスト・保険会社利益が内包された構造である。
言い換えれば、保険会社が儲けるために設計されている。
商品価値がある保険ならば、それでも合理性がある。
しかし、がん保険やドル建て保険のように、経済的にも医学的にも効果が乏しい商品を、
「経営者リスク対策」 として売るのはク×だ! 私はこんなゴミ商品は絶対に販売しない!
しかし、どうしても、「がんが怖い、円安が怖い」という経営者諸氏、私にお任せください。
あなたの不安を解消するために「もっと良い商品」をいつでも販売させていただきます
(嘘です。でも保険のアドバイスくらいはできます)。