【社長向け】1分コラム
【社長向け】1分コラム
作成日:2026/05/01
運と偶然に支えられながら、暗闇を歩き続ける



 


中小企業の社長をやっていると、妙な確信が芽生える時期がある。


「ここまで来たのは、全部自分の実力だ」と。



もちろん、相当な努力はしている。

営業、労務、人事、採用、クレーム対応、

時にはトイレ掃除、問題社員対応、優秀な社員の退職で眠れない夜もある。

資金繰りや新規商材開発に追われながら、「来月は何とかなる」と自分に言い聞かせる日々。



だが、業績が少し上向いた瞬間、

人は簡単に「これは自分の意思決定が正しかったからだ」と思ってしまう。



――ここで、金融機関担当者も優秀なコンサルも、

     絶対に言わないので、不肖 齋藤が言わせていただく。

 「あなたは社長です。しかし、経営でコントロールできることは、ほとんどありません」 と。

 


どれだけ精緻な経営計画を立てても、現実はそんなに甘くない。

ロシア・ウクライナ戦争、イラン情勢、資源価格の高騰、為替の急変――

いわゆるブラック・スワンは、こちらの都合などお構いなしにやってくる。


取引先は突然倒れ、気まぐれに顧問先は去ってゆき、

期待していた社員は三日坊主、社長がいなければ朝礼すらスキップする。

そう、私たち経営者は、思っているほど何もコントロールできていないのある。



それでも人は、「謎の万能感」に陥る時期がある。(*私の場合は40代でした。)

多少うまくいく。地域で名前が売れる。役職が増える。銀行が持ち上げる。

すると、「自分はできる経営者だ」という物語が完成してしまう。


しかし経済学の視点で見ると、この認識はかなり危うい。


企業の成長率は、統計的にかなりランダムな振る舞いをする(いわゆるジブラットの法則)。

企業規模や業種に関係なく、成長は確率的に揺らぐものなのだ。

企業の生存率を見ると、新規企業の約半数は数年で消える。

明確な能力差ではなく「分布の中の結果」に過ぎないという現実なのだ。



成功企業は“上振れしたサンプル”。倒産企業は“下振れしたサンプル”。

考えてみれば当然だ。

経営とは、自分でコントロールできない変動要素の集合体だから。

為替、金利、人材、取引先、政策、顧客の気まぐれ。

成長も成功も失敗も倒産も、ほんの僅かな差で分岐していく。

かなり乱暴に言えば、

「たまたまこの時代、この場所、この親から生まれた」ことと、同じくらいの偶然性に依存しているのだ。



都内にカッコいいアンテナショップを新設、業界の会議で自分の案が通る。

大きな銀行がゴマをすり、社員が「社長のおかげです」と言う。

こうして運と偶然が、「自分の実力」に変換されていく。


そして極めつけが、創業〇周年の自費出版だ。

『どん底からの挑戦』『信念が未来を切り開く』――だいたいこのあたりのタイトルになる。


しかし冷静に読めば、

「その時銀行が貸さなかったら? 終わってませんか」 という場面がいくつも出てくる。

内容は「たまたま死ななかった話」なのだ。

(*もちろん、例示の「自伝本」は、当社顧問先様から頂いた本ではございません。悪しからず)



中小企業社長あるあるとしては、

「1.うまくいったのは自分の戦略、2.失敗したのは外部環境、3.社員のミスは本人の資質」

ドリフのコントのよう。


だが現実は違う。

社員が踏ん張り、取引先が発注し、銀行が融資し、家族が支えた結果なのだ。

もちろん社長の並外れた努力、忍耐、行動があった上であることは当然だ。


先日、ある社長がこう言っていた。

「うちは全部、私の判断でここまで来たんですよ」。

その直後、奥様が一言。

「その前の年は、真逆のこと言ってたけどね」。


社長は一瞬止まり、こう言った。

「それも含めて、オレの戦略だ」――。



結局のところ、

経営者とは、世界の不確実性と制御不能な社員を相手に、暗闇を歩き続ける職業である。

セルフマインドコントロールによって、自分の形を保つ。

そして今日もまた、両肩に大きなストレス、顔には大きなシミと深い皺。

運と偶然に支えられながら、我々は胸を張ってこう言うのだ。


「これは全部、自分の実力だ」と。





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